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名古屋地方裁判所 昭和53年(行ウ)3号 判決

名古屋市中区丸の内一丁目一四番一八号

原告

東亜産業株式会社

右代表者代表取締役

坂野勝憲

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

名古屋中税務署長

被告

藤具貞

右指定代理人

前蔵正七

外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

被告が原告に対し、昭和五二年四月二八日付でした昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度以降法人税の青色申告書提出の承認を取消す旨の処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二主張

(原告)

請求原因

一  原告は、昭和三一年二月一三日に設立され、山林経営業及び不動産賃貸業を営んでいる会社であるが、同年七月二五日被告から青色申告書提出の承認を受けた。

二  被告は原告に対し、昭和五二年四月二八日付で、昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度以降法人税の青色申告書提出の承認を取消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)をなした。

三  しかしながら、本件取消処分は左の事由により違法であるからその取消しを求める。

1 本件取消処分は、青色申告書提出承認のあった昭和三一年七月から二十年余を経て行われたものである。この間、原告は、法人税法を遵守して各事業年度毎に申告書の提出を続けてきている。然るに、被告は、これまで原告の申告について何等の注意、指導もせず放任してきて置きながら、予告もなく、突如として本件取消しの処分に出たのであって、かかる処分は違法である。

2 本件取消処分は、法人税法一二七条一項一号を根拠とするものであるが、その事実はない。

3 本件取消処分は、原告が昭和五一年四月三〇日に確定申告書を提出した昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二八日までの事業年度分の法人税調査に関連してなされたものである。従って、青色申告書提出承認の取消しは、これが許されるとしても右の事業年度にまでさかのぼることができるに過ぎないのであって(法人税法一二七条一項)、本件取消処分の内、昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度以後までさかのぼっている二ヵ年分は違法である。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一、二の事実は認める。

同三は争う。

被告の主張(本件取消処分の適法性)

一  原告の、昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日まで、昭和四九年三月一日から昭和五〇年二月二八日まで、昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日までの各事業年度分の確定申告につき、昭和五一年八月頃被告において、右申告が正当かどうかを確認するため調査したところ、昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度において、原告は、次の取引を行っていたことが判明した。

1 原告は、昭和四八年五月二八日訴外古川為三郎との間で、岐阜県本巣郡根尾村松田字悪田谷八〇一番の六〇外一二筆の山林合計七〇一、六〇七平方メートルの売買契約を締結し、原告は同年六月七日右売買代金四、〇〇〇万円を受領していること。

2 原告は、昭和四八年一一月二〇日訴外後藤明郎との間で、岐阜県武儀郡洞戸村菅谷字下河原二三番外一筆の宅地合計四四六、・〇八平方メートルの売買契約を締結し、原告は同年一一月右売買代金一〇〇万円を受領したこと。

3 原告は、山林経営に係る植裁、造林費等の費用を支出していること。

4 原告は、名古屋市南区南陽通二丁目一一番及び同区一条町二丁目にアパート東亜荘を所有し、右アパートの賃貸による収益があること。

5 原告は不動産賃貸業に係る水道料、電灯料及び賃貸不動産に対する固定資産税等の費用を支出していること。

6 原告は、三菱銀行名古屋支店、三和銀行名古屋支店、東海銀行御園支店等の金融機関に預金をし、その利息を受け、また、これら金融機関から借入れをし、それに対する利息の支払等をしていること。

二  そこで、被告は原告に対し、法人税法一二六条及び同法施行規則五三条ないし五九条所定の貸借対照表、損益計算書、仕訳帳、総勘定元帳及び取引の裏付けとなる契約書・領収書等の書類(以下「帳簿書類」という。)の提示を求めたところ、原告は、〈1〉手形関係補助元帳〈2〉銀行関係補助元帳〈3〉土地譲渡所得計算明細書〈4〉支払利息計算書を提出した。

原告が提出した右手形関係補助元帳及び銀行関係補助元帳の記帳内容をみると、取引先名らしき符号、月日及び金額の記録があるのみで、右記帳の形式は、金額を羅列した手形決済のための原告の覚帳にすぎないものと認められ、また、土地譲渡所得計算明細書及び支払利息計算書は単なる計算明細書であり、原告が提出した右〈1〉ないし〈4〉の資料は、原告の取引の実態を整然かつ明瞭に記帳した帳簿書類とは到底認められなかった。

そこで、被告はさらに、前記一の各取引など原告が行った取引の一切を記録した帳簿書類の提示を求めたところ、原告は被告に対し、「帳簿類の記入整理は勿論、これ等に附随する一切のものは残念ながら残存しない。」旨の申立書を提出した。

三  以上の事実からすれば、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度における帳簿書類の備付け、記録及び保存は、法人税法一二六条一項に規定する大蔵省令(法人税法施行規則五三条ないし五九条)で定めるところに従って行われていないことは明らかである。

従って、法人税法一二七条一項一号に基づいてなした本件取消処分は適法である。

(原告)

被告の主張に対する認否

被告の主張一の事実は認める。

同二、三の事実は否認する。

第三証拠

(原告)

甲第一号証の一・二、第二ないし第八号証、第九号証の一・二、第一〇ないし第一七号証を提出し、乙第一号証の一の成立を否認し(但し、原告名下の印影が原告の印章によるものであることは認めた。)第五号証の成立は不知とし、その余の乙号各証の成立を認めた。

(被告)

乙第一、二号証の各一・二、第三ないし第五号証を提出し、証人寺澤増己の証言を援用し、甲第三、四号証が原告作成文書の写しであることを認め、第六号証、第九号証の二の成立は不知とし、その余の乙号各証の成立を認めた。

理由

一  請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件取消処分の適法性について検討する。

法人税法一二六条一項によれば、青色申告の承認を受けている内国法人は、大蔵省令(法人税法施行規則五三条ないし五九条)で定めるところにより、帳簿書類(貸借対照表、損益計算書、仕訳帳、総勘定元帳及び取引の裏付けとなる契約書、領収書等)を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ当該帳簿書類を保存しなければならない、と規定されている。

本件についてこれをみるに、被告の主張一の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証の二、第二号証の一・二、第三、第四号証、甲第一六号証、証人寺澤増己の証言及び同証言により成立の認められる乙第一号証の一、第五号証によれば、原告が提出した昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日まで、昭和四九年三月一日から昭和五〇年二月二八日までの各事業年度分の確定申告書には、法人税法七四条二項に規定する貸借対照表及び損益計算書等の添付がなかったこと、被告が原告の法人税の所得金額について調査した際、被告係官の求めに応じて原告から提出された書類は、〈1〉見出しに取引先の記載があり、月日及び借方・収入金額欄等に金額が記帳されている手形決済のための覚帳様のもの(甲第三号証)、〈2〉見出しに銀行名の記載があり、月日及び借方・貸方・収入金額・支払金額欄等に金額が記帳されている手形決済のための覚帳様のもの(甲第四号証)、〈3〉「山林育成費用明細書」等と題する土地譲渡所得に関する計算明細書(甲第五号証)、〈4〉支払利息計算書、〈5〉預金通帳、当座勘定照合表等のみであり、これらの資料はいずれも被告の主張一掲記の取引等原告が行った取引の実態を整然かつ明瞭に記帳した帳簿書類ではなかったこと、他に原告からは仕訳帳、総勘定元帳等帳簿書類の提出はなく、昭和五二年一月五日付で、被告に対し、「帳簿書類の整理は勿論、これ等に附随する一切のものは残念ながら残存しない。」旨の申立書が提出されたことの各事実が認められ、他に右認定を覆すべき証拠はない。

右事実によれば、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度における帳簿書類の備付、記録及び保存が法人税法一二六条一項に規定する大蔵省令(法人税法施行規則五三条ないし五九条)で定めるところに従って行われていなかったことは明らかであるから、被告は法人税法一二七条一項一号に基づき、その事業年度、即ち昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日の事業年度までさかのぼって青色申告書提出の承認を取消すことができるのであって、この点に関する原告の主張(請求原因三の23)は理由がない。

つぎに、原告は、申告について何等の注意・指導もせず放任して置きながら予告もなく突如として本件取消処分に出たのは違法であると主張するけれども(請求原因三の1)、帳簿の備付、記録及び保存が法令に定められているところに従って行わるべきことは法律をもって明定されているところであり、これが行われていなかったために青色申告書提出の承認が取消されたとすれば、それは法律に定められるところに違反した者の自ら負担すべき結果に外ならないのであって、被告の注意・指導ないしは取消の予告がなかったからと言って本件取消処分が違法であると言うのは当らない。この点についての原告の主張も理由がない。

原告の出張はいずれも理由がなく、本件取消処分は適法である。

三  そうすれば、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 浜崎浩一 裁判官 山川悦男)

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